No.137 2011.9  道場長 黒木博道
 

 天上月まどかに、日中は時折厳しい残暑に見舞われることがありますが、合気道の

稽古に絶好の季節となりました。暑中稽古を始めこの夏十分な鍛錬をし、かなり腕を

上げた会員も何人かいるようです。
 今月より有段者稽古を始めます。今月は9月29日(木)の夜7時~8時30分です。

自らの技の鍛錬はもちろんですが、術理や指導者としての心得も勉強していただき

たいと思います。言い方を変えれば「合気道研究会」と言ったらいいでしょう。
  合気道の言語化に取り組み、しばらくの年月が流れましたが、この夏合気道の技の

「過程」と「要素」について、ほぼ出来上がりました。五つの過程と八つの要素に纏

めることにし、八つ目の要素は会員諸氏にも考えていただきたく募集をしたところ、

たくさんの人から応募をいただきました。採用した言葉は「不遅」。5人の方から

いただきました。


鍛錬覚書 「過程と要素」について

 合気道の技を注視して行くと、そこに見えるものがあります。先ず技の流れとして、

出合いから始まり、捌き、攻め、入り身、処理というふうに進んで行きます。鍛錬法

としては、この五つの過程をしっかり省略することなく丁寧にやるべきです。基本鍛

錬は技を覚える、技を創ることに没頭しなければなりません。
 つぎに技の要素ですが、三角・マル・四角・連動・均等・不滞・不遅・2対1の八つ

を確認材料として認識しておいたらよいと思います。今回採用の「不遅」は不滞との

対比で持って来ました。「先動」「先制」という言葉も多く寄せられましたが、「遅

れない」という言葉の方が指導上使いやすいということもあり、「不遅」とした次第

です。
 自らの技をチェックするとき、あるいは人の技をチェックするとき、この五つの過

程と八つの要素を以ってやればよろしいということになります。もちろん教えたり学

んだりするときに、有用なチェックリストになることは言うまでもありません。
 当会の稽古形態は3人稽古を標準としています。2人がやるときに1人はしっかりと

見ていてください。するのも稽古、見るのも稽古、稽古の幅が広がるはずです。
 出合いの形は三角です。その意味もあり、三角を過程のトップに持って来ています。

そして八つの要素は、合気道の技を支えることは本より、実際の生活の中でも活き活

きと生きなければならないと思います。
 誤解のないように言っておきますが、「過程と要素」は世界中どこの合気道にも存

在するものであり、合気道の一般性と言ったら良いでしょう。合気道の技に立ち入り、

分解することによって見えてくる概念です。これがはっきりと確認できたら一人前で

す。少なくとも有段者はこれが解かるレベルであり、また見えなければならないと思

います。


徒然なるままに

 技の要素八つ目の募集にあたって、いろいろな言葉が寄せられた。折角だから紹介

しておこう。
先動・先制・先手・先行・先攻・先読・先取・早攻・早前・早出・早勝・不守・不待・

不諦 不動・感応・即応・俊応・反応・即動・気攻・気先・気迫・背攻・柔体・流動・

柔軟・定敵・姿勢・主体・二択・表裏・十文字・伏仰掌・タイミング・一足感出・掴

む開く
まさに百花繚乱、しっかりと的を得たものがたくさんある。先動をトップに先制、先

手は複数の人から寄せられた。これらは「遅れない」ことと同義語である。こちらが

準備した「不遅」に照準を合わせて来たとは、さすがわが錬成会の面々、優秀な動き

だ。
 ここのところ毎回の稽古で、「遅れるな」を連発してきた。先ずは「出合い」で遅

れない。ここが肝要である。「不遅」は実人生で重要である。オクレルナ オクレテ

フラレタ バカガイル デートに遅れちゃいかん。
 「居着き」という言葉がある。武道の世界では「居着き」という言葉を嫌う。先般

の世界陸上100メートル決勝で、優勝間違いなしのボルトがフライングで失格になっ

た。「遅れちゃいかん」に居着いてしまった結果だろうと思う。
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 先日の土曜日稽古の後、MRTラジオの「ほんのほんの時間」という番組で、稽古

に参加していた小嶋会員の投稿が放送され、一緒に聴いた。今回で6回目だという。

中学校の教師ならではの体験から来る、とてもいい内容のものだった。ラジオの朗読

に引き込まれ、久し振りに心が洗われる想いを味わった。
 出合いは三角で尖がっていても、円く収めると両者が安定(四角)する。三角・マ

ル・四角の要素を有する合気道の有用性と実益である。それは実社会における人間関

係・対人処理の奥義につながるものだと思っている。彼の放送は過去何回か聴いたこ

とがあるが、学校教育の場で合気道を活かしているなという思いがする。今後が楽し

みである。


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 自然農法の勉強に綾町に行って来た。「綾自然農塾」で実際に野菜の種蒔きなどし

てみた。おどろきもものきさんしょのき、草むらに種を蒔く。もちろん種を蒔くとこ

ろは、鍬で削る。苗を移植するときは、そこだけ穴を掘る。耕さないから耕運機は要

らない。鍬と鎌だけの農業。タイムスリップした感があった。
 以前から無肥料・無農薬の農法に興味があり、機会をうかがっていたが、縁あり今

回実現した。本腰入れて勉強してみようと思っている。限りなく安全な野菜を求める

には、この農法が一番だ。それにしても、新宿伊勢丹の地下で売っていた1キロ1万円

の米は衝撃的だった。それは無肥料・無農薬の米。
 野菜などはある程度自給自足できるが、他のものは買うしか手がない。魚は天然物

がある。米と鶏肉と鶏卵は見つけた。あとはボチボチ見つけるか。


 

No.136 2011.8  道場長 黒木博道
     
 夜露棲林の候、朝夕は凌ぎやすくなり、暑さも峠を越した感があります。先月13日から始まった1ヶ月間の暑中稽古も終わり、噴出す汗をもろともしない懸命な姿が印象的でした。
 7月より発足させた助教制度も、上手く機能して初心者レベルの方々を導いているようで、先ずは一安心です。7月は偶然にも4名が新しく稽古を始めました。今月はこの制度の真価が問われるテストケースの月となりそうです。今月より新たに福山千寿子さんに助教を引き受けていただくことになりました。よろしくお願いします。
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暑中稽古成績優秀者   暑い中よく稽古をされた優秀会員を紹介します。
橋口賢一朗  束元健司  桂木朋宏  小嶋寛史  高橋裕子  小川尚子  野崎暖生

 


鍛錬覚書 「剣の鍛錬」について

 「合気道は槍術と剣術を母体として創られた現代武道である」。なぜ剣の鍛錬をするのか。ひとつにはこの言葉があるからです。合気道は剣術的な体術であり、剣術イクオール体術、体術イクオール剣術、けっして切り離してはいけません。
 「剣体一如」、この言葉は合気道人にとって重たいものです。ゆめゆめ忘れてはいけません。この夏剣の鍛錬に力を注いでいます。我もと思う人はぜひ剣の稽古に参加してください。今やっている合気道が変わるはずです。
 さて何処が変わるのか。先ず足の使い方に顕著な変化が出て来ます。足の使い方が、レベル3から4へランクアップすることが間違いなく期待できます。
 錬成会の体術の基本鍛錬法はまさに剣をベースに創られています。Ⅱの形を思い起こしてください。Ⅱの形は剣の形です。Ⅱの形から、腕抑え・三教・小手返し・四方投げ・回転投げ・入り身投げに発展して行くわけですが、これら六つの技に共通するもの、それがⅡの形つまり剣の形です。
 Ⅱの形(剣の形)は出合い・捌き・攻め・入り身から成り、Ⅱの形のハイライトは入り身です。完璧な入り身から最後の処理に入る。これが合気道の技の全貌です。最後の処理を合気道開祖は「座興」と言われ、野中師範は「後始末」と言われました。座興、後始末と言わしめるためには、完璧な入り身なくしてはあり得ない、こういうことだろうと思います。
 今われわれは、Ⅱの形(剣の形)をマスターすることに全精力を傾けなければなりません。絶対剣をやらなければならないということはないと思いますが、早くマスターするためには剣の鍛錬が早道だということです。
  「剣体一如」、剣の鍛錬をやることによって早く実現すると思われるもの、それは「気の技」、「心の技」。

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徒然なるままに

 合気道に発心して長い年月が流れている。合気道をモノにしたい、その一念でやってきた。最近ようやくモノになりそうな想いを抱くようになってきた。
 先だって女子中学生と女子高校生を指導していたときのことである。彼女達が実に上手く力を入れない動きを見せるのを見て、「これだっ!」と直感した。鋭さとしなやかさ、これこそ合気道の「体(たい)」の動きだというのを見せてくれた。
 着々と育っていく稽古生を見るのは実に楽しい。過日師から、「いいのが育ったな」という言葉をいただいたとき、「ハッ」と思った。この言葉こそ、最高の褒め言葉だと。
 「おまえさん、いい動きになったな」と言われたことはないが、もし言われたとしても、「いいのが育ったな」という言葉の方がうれしい。「いいのを育てたな」と言わないところが、師らしい。やはり虎だ。師のイメージは虎。さしずめオレは「虎の子」ということになるのかな
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 「初心者の導き方」、まさに長年の課題だった。「初心者の導き方は熟練者の鍛錬と連動しなければならない」。この条件をクリアーするために、長い間試行錯誤をくりかえし、ようやく今ここに出来上がりつつある。
 初心者に対して、最初から最高のものを学んでもらうことが、良い指導である。けっしてた易い学び方、やさしい学び方を教えるべきではない。何故か。導くのは熟練者、導くことが熟練者の更なる上達につながらなければならない。指導によって熟練者の腕が上がる、こうであらなければならないはずだ。
 当会は先月より助教制度を採り入れた。助教は定期的に稽古に参加できる有段者から選ばれている。助教は初心者を導き、またそれによって自らの上達を図る、そうしなければならない。
 現在の当会の鍛錬法は、導くもの導かれるもの双方が、上達の階梯を確実に昇っていくことを具現すると、確信している。

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「武道とは?」。今それを考えるよい機会を得ている。昨年から始まった、野中師範のブログに今回号外として4編、「ケガゼロ武道」を学校へと題して掲載される。すでに2編が掲載されているが、「武道とは?」を勉強する絶好の論文だ。
 「武道を学ぶのに武道場は要らない。武道場があるからケガをする」という論法は、武道人を振り返らせるほどのインパクトだ。言い得て妙とはこのことである。何十年という間、まさに耳にタコができるほど、師の武道論を拝聴してきたが、今回ほど唸ったことはない。
 真の武道論、新武道論としてまたしても武道界に一石を投じることになるか、今後の進展が楽しみである。「武道の礼儀作法」上梓以来の「目からウロコ剥ぎ」の予感がする。
 体の技から気の技へ、そして何よりも心の技、今自分にあるのは何の技か。まだ体の技辺りをウロウロしているような気もする。
 


 

 

No.135 2011.7  道場長 黒木博道
     

 蛍青夜に飛ぶ候、梅雨明けとともに酷暑到来、日々の暑さに閉口している昨今です。しばらく当通信の発行を中断していましたが、今月より再開します。
 当錬成会では今般指導体制の充実を図るため、助教制度を導入しました。とくに初心者レベルの育成のため、力を存分に発揮していただきたいと思います。メンバーを紹介します。

橋口賢一朗 束元健司 桂木朋宏 小嶋寛史 福元 学 野崎暖生 高橋裕子

以上7名です。道場長のアシスタントとして日々の稽古において、後進を導いてください。

宮崎研修の拡大 
 従来月1回の研修を実施してまいりました。隔月木曜日の夜と土曜日の昼を交互にセットして来ましたが、今月より月2回木曜日と土曜日に実施することにしました。ちなみに7月は、21日〈木〉と30日(土)に予定しています。参加希望者は、事前に道場長まで申し出てください。



暑中稽古の案内
 恒例の暑中稽古を以下の日程で実施します。精勤賞を目指してマイペースで臨みましょう。
期間 7月13日〈水〉~8月12日(金)



鍛錬覚書 「入り身」と「切り払い」について

 当錬成会の稽古の中心である基本鍛錬は、三つの出合いから出来ています。出合いから発展を辿る技の数は、それぞれの出合いから都合六つずつ、合計十八になります。しかし、技の種類から数えると、六つの技ということになります。
 基本鍛錬は形稽古で、使い方レベルではありません。使い方レベルの技は、基本鍛錬で培った基本技の応用です。応用の最たるものは、何と言っても「女子護身応用技」です。非力な女性が屈強な男性を制圧することが可能な女子護身応用技は、女性の武道に対する夢を実現するものです。
 六つの基本技に共通するもの、それは「入り身」です。「入り身」は合気道の極意だと言われて来ましたが、実戦を想定したところで捉えるとなると、非常に難しいところがありました。今錬成会では、そこのところを克服しつつあります。
 「入り身」がきちっと出来れば行き詰まることはなくなります。パワー合気道との決別です。パワーとスピードで制圧する合気道から1日でも早く抜け出し、真っ当なる合気道を身に着けましょう。「小手返し」に不可欠な「切り払い」、「入り身」と「切り払い」でワンランク上の合気道を目指しましょう 。

 



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徒然なるままに

 日本国を揺るがした東日本の大震災、その復旧・復興はまだまだ時間がかかりそうである。よもやこんな事態になろうとは誰も予測しなかった。今回の大震災と時を同じくして、この我が身にも不測の事態が取り寄せた。震災よりも早く復旧・復興が出来たが、再び惨禍をこうむることのないよう防御体制の強化を図っている。
 事故にしろ病気にしろ、いつ我が身を襲ってくるか分からない。それ故に常日頃、防衛力の強化と体制を維持しておかなければならないのに、現実は実に甘い生活を送っている。一度体験すると、しばらくは性根が入り、隙の無い動きになる。しかし、喉もと過ぎれば何とやら、いつしか元の木阿弥、これが愛すべき凡人の姿である。
 しかし、しかしである。天変地変等の恐怖を目の当たりにしたならば、二度と再びその憂き目に遭わないよう、心して生きて行かなければならない。
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 震災で大きくクローズアップされた原発問題も、さらに延焼拡大しそうな感じである。今回大ごとになってしまった九電のメール問題、このことはまさに当事者の認識の甘さを露呈してしまった。今どきこんなことが通用するわけがない。相変わらず旧態依然とした社内体質に開いた口がふさがらない。小生も一時は身を置いた組織である。若い時分一緒に仕事をした後輩が、幹部の一人として組織のトップ近くにいる。剣の道を歩いてきた彼なら、そんな下手な動きはしないだろう。しかし、下手な動きをするのがはるかに多いわけだから、さすがの彼も長いものに巻かれてしまっているのだろうと思うと、残念である。
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 最近また合気道ウォーキングを始めた。日頃の稽古で、基礎鍛錬に必ず入れているが、路上でやるのは久し振りだ。早朝稽古の行き帰りにやるので、行きは人とも会うことがないが、帰りは多くの人と行き交う。作務衣を着、変わった歩き方をする姿は、登校中の子どもたちに「変なおじさん」として映っているかもしれない。この合気道ウォーキングは、我が錬成会のオリジナルのウォーキングである。開発に到るまで30年以上の年月が費やされた、合気道人のためのウォーキングで、脂肪を燃焼させるために歩いている人たちのウォーキングとは、形も性質も違う独特の歩き方である。
 このウォーキングで期待される効果は、攻防の出合いの形の刷り込みにある。もう一つはリラクゼーション、体の力を抜くために大いに役立つと思われる。スポーツで例えると分かりやすいと思うので、紹介してみる。
 バレーボールではパスの練習、陸上競技ではジョギング、野球ではキャッチボール、たくさんやってもやり過ぎということはない。
 このウォーキング、30分で3,000歩、2歩で1回の攻防の形をやるので1,500回出来る。1日30分、年間300日歩いたとする。1年に45万回出来るので、100万回は2年ほどで達成する。完璧な刷り込みが100万回だとすれば、そんなに遠くはない。